虚構太郎

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シン・ゴジラ

僕が子供の頃に、ゴジラファイナルウォーズという映画が公開された。ファイナルとかついているし、最後のゴジラなんて触れ込みで公開されていたからもうこれで終わりかと思いきや、10年ほどたちまずハリウッド版の「GODZILLA」が2014年に、そしてついに2016年に庵野秀明が監督の「シン・ゴジラ」が公開された。

こう書くと待ちに待ったゴジラ、みたいに思い入れがあるかのように思われそうだけど、これらが公開された頃には僕の特撮への興味はとうに失せていて、劇場に足を運ぶことすらなかった。情けないことに「シン・ゴジラ」よりも同年公開の「君の名は」の方が興味があった。

流石に公開翌年くらいにDVDで見て、まあそこそこ面白いと思いつつ、そこまでハマることはなかった。

ところが、今年になって見返して、最高の怪獣映画であることに気づいてしまった。

異変発生から、政府の対応そして怪獣登場までの緊張感。そして「蒲田くん」とも呼ばれる間抜けな顔で這って移動する三枚目キャラの姿で街を荒らし一旦海に戻ってから、真の姿を見せる構成のうまさ。そして、最後の「ヤシオリ作戦」のかっこよさ。

またこういう怪獣映画では、人間たちの不要なドラマなんかで冷めることが多いが、そういった余計なものが排除され、仕事をする政府関係者が歯切れ良く描かれるところもいい。また、矢口率いる巨大不明生物特設災害対策本部の絶妙な臭さも好きだ。

でも何と言ってもこの映画の主役は当然ながらゴジラであろう。

まず、上陸してくるところ。ゴジラがこちらを見ているかのような正面を向いたのカット、この不気味感、異物感は本当にかっこいい。そもそも「シン・ゴジラ」におけるゴジラのデザインは、かなり異形だ。身長の何倍もある尻尾、ずっしりとした太ももなど、明らかに下半身が極端に大きい。そして手や頭は小さかデザインされている。その出立ちはどことなく土偶ぽくもある。

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あとやっぱり一番好きなシーンは、夜の東京をビームで破壊しつくところだ。まず、ゴジラお決まりの口からの熱線。これも今までのゴジラなら発射は単純に口を開けるだけだが、シンゴジラでは口が4つに裂けて大きく開き、中の孔から熱線が出る。この4つに裂けた口が何とも不気味でいい。今回のゴジラはやはり、平成シリーズでのヒーロー感を脱して、純粋な怪物として描いているところが好きだ。そしてそれだけで終わりかと思いきや、尻尾の先からも、また背中のヒレ?からも無数の熱線が発せられる。そして、燃える東京の街と破壊者たるゴジラを遠景に移すカットは本当に美しい。ここは不思議と涙が出そうになる。

東日本大震災の5年後に公開の映画ということもあり、ゴジラという災害は表現においても、また受け手にとっても、強烈なリアリティを持っている。

表現という面では、ゴジラが出た時の内閣や各官庁の対応への皮肉があったり、逆に昼夜問わず対応する頑張りが描かれたりと、震災を明らかに意識した話の作り方、ディティールの持たせ方となっている。

また受け手にとっても、津波原発事故の報道の記憶は当然残っており、やはりどうしても想起させられる。

それはキャッチコピーである「現実対虚構」という言葉にあらわれている。初代ゴジラは戦争体験の元に生まれ、シン・ゴジラは震災体験の元に生まれた。どちらも国レベルのトラウマの元にうまれたというのはなかなか興味深いと思う。

最後、ゴジラは「ヤシオリ作戦」により凍結される。しかし完全に解決したわけではなく、東京のど真ん中に残ったまま一生向き合わないといけない。ゴジラの残った東京に人はまた戻ってくるのか。