旅の率直な感想として、改めて美術は面白いなと感じた。絵画は一目で全体が分かるものの、分かり切った感覚はどれほど眺めてもなかなか得られない。名画であるほど、感情は込み上げても、依然として何なのか分からないままで、ずっと眺めてしまう。
今回は、結構タイトなスケジュールで、正直一つ一つの絵を見る時間はあまり取れなかった。少しでもピンと来なかった絵は、足を止めることもなかったし、気になった絵も、不完全燃焼のまま去ってしまった。
印象に残ったのは、個展絵画でいくと、細密と迫力の描写そして色彩の組み合わせが面白いアルトドルファー、あり得ないほど凝った質感のフランソワブーシェ、生き生きとした人物描写と細密表現が美しいブリューゲル、ルネサンスの総決算ともいえるラファエロ。
フランソワ・ブーシェは、フランス18世紀の華麗な宮廷文化を象徴するロココの画家なのだが、元々浮かれ切ったロココ絵画など軽蔑し切っていたのに、質感があまりに気持ち良すぎて、悔しいけど見入ってしまった。題材や女性、服の装飾などには全く興味が湧かないが、ただその油絵の具の塗りによる陶器のような質感表現という一点だけで強烈な印象を残した。
近代とそれ以降だと、マティスにも繋がる平面性と装飾性が素晴らしい効果を生み出すクリムト、センスが溢れるシーレなどウィーン勢はもちろん、印象派を先駆け光の描写に拘るあまりに何を描いているかわからない(=抽象)けどすごいに辿り着いているターナーは、まず良かった。
あと、六本木ヒルズ前にもある蜘蛛のオブジェで有名なルイーズ・ブルジョワの絵画作品展や、オーストリアとドイツの戦後絵画の特集展は良かった。前者は、シュールレアリスムに影響を受け、自分の不法理な感情を表現した非常にパーソナルな絵画が主だった。
後者は、ドイツとオーストリアの画家をそれぞれ対として、紹介する展示で、合計十数人くらいの、おそらく現代絵画の巨匠たちの絵画が飾られていた。画風は様々で、抽象、ポップアート、ハイパーリアリズム、社会派など、現代における絵画のテーマをおおよそカバーするような感じだったと思う。去年日本でも回顧展があった、リヒターも特集されていた。全体的に質が高く、現代にも良い絵画はあると実感できて良かった。